敏感肌の痒みを引き起こす原因、「タイトジャンクション」の形成不良をいかに抑制するか

肌のバリア機能が低下すると、体調や環境によって肌の状態が変わりやすくなり、外部からの刺激を受けやすくなります。こうして起こる感覚過敏が、一般的によく言われる「敏感肌」です。ちふれホールディングスの綜合研究所は、敏感肌の痒みの軽減につながる機能性成分を調査する研究に取り組んでいます。

アトピー肌の知見を活かし、敏感肌の研究に取り組む

皮膚には、体内の水分をコントロールするとともに、外部からの異物や刺激から体の内部を保護(バリア)する役目があります。このバリア機能が低下すると、体調や環境によって肌の状態が変わりやすくなり、外部からの刺激を受けやすくなります。ときには、チクチク感やヒリヒリ感、痒みや痛みを感じることもあります。こうした感覚過敏の状態が、一般的によく言われる「敏感肌」です。

皮膚に痒みを感じる疾患肌としてはアトピー肌があり、皮膚科学ではアトピー肌の研究が進んでいます。アトピー肌と敏感肌は、皮膚のバリア機能が壊れたり、痒みを伴う炎症を生じたりするなど、多くの類似性があります。そこでちふれホールディングスの綜合研究所は、アトピー肌に対するこれまでの皮膚科学の知見を活かし、敏感肌の痒みの軽減につながる機能性成分を調査する研究に取り組んでいます。

痒みを感じるメカニズム

そもそも、私たちが皮膚で痒みを感じるのは、皮膚直下の神経が外部からの刺激を検知することによります。健常な肌では、神経繊維が皮膚の奥深くにある「真皮」のところでとどまっているのに対し、アトピー肌では皮膚の表面にある「表皮」まで神経線維が伸びています。神経が皮膚の表面近くにあることで、外部からの刺激を神経が鋭敏に検知して、激しい痒みが生じています。

アトピー肌で、神経繊維が表皮まで伸びてくるのはいくつかの要因がありますが、その一つが近年の皮膚科学の研究により明らかにされました。健常な肌では、表皮内部で形成される「タイトジャンクション(以下、TJ)*1」と呼ばれる構造体が、バリアの機能を果たしていることが知られています。TJが正常に形成されていると、神経繊維が表皮まで伸びてきても、TJのハサミのような役割によって切られるのですが、アトピー肌ではTJの形成不良が起きていて、それによって、表皮まで伸びてきた神経線維が切られることなく、皮膚表面近くまで伸びることが分かりました。

この研究成果を踏まえ、綜合研究所は、敏感肌でもアトピー肌と同じくTJの形成不良が起きているとの仮説を立て、TJの形成不良を防ぐ(つまり、TJの形成を促進する)機能性成分を調査することにしました。その機能性成分が見つかれば、敏感肌に伴う痒みを軽減することが期待できます。

*1 タイトジャンクション(TJ)…表皮の顆粒層にある、隣り合った細胞の隙間を埋める接着構造のこと。

敏感肌モデルの再現試験

まず取り組んだのが、敏感肌でもTJの形成不良が起きていることの確認です。アトピー肌では血液の中のヒスタミン*2濃度が上がり、それがTJの形成不良を引き起こしていると考えられます。このことから、敏感肌でも同様の現象が起きている可能性が高いと考え、皮膚の細胞(正常ヒト表皮角化細胞)にヒスタミンを作用させ、TJの形成にどのような影響を与えるかを調べました(敏感肌モデルの再現試験)。

TJの成熟度(どの程度TJが形成されているか)を調べるために採用したのが、「経上皮電気抵抗値(TER)」です。皮膚の細胞どうしがくっついてTJがきれいに形成されると、電気抵抗値が上がって電気が流れにくくなります。つまり、TERの値が高ければ高いほど、TJが良好に形成されている(TJの成熟度が高い)と評価します。

ヒスタミンの濃度を変えて皮膚の細胞に作用させたところ、濃度が高くなればなるほど、TERの値が低下することを確認できました。これは、ヒスタミンがTJの形成を阻害し、TJの成熟度が低くなったと考えられます。つまり、ヒスタミンを原因とする敏感肌では、TJの形成不良が起きていることを確認することができました。
TERのグラフ TERのグラフ *2 ヒスタミン…生体内にある生理活性アミンの一種。代表的な起痒物質の一つ。かゆみや紅斑を誘発する。

TJの形成不良を抑制する2つの機能性成分

次に取り組んだのが、ヒスタミンによって再現した敏感肌モデルに対し、TJの形成不良を抑制する(すなわち、TJの形成を促進する)と見込まれる機能性成分を添加して、TJの形成度合いを調べる試験です。ここで、綜合研究所は次の2つの成分に注目しました。

一つは、抗炎症作用があることで知られる「グリチルリチン酸ジカリウム(GK2)」です。アトピー肌では、皮膚で起きている炎症によって、TJの形成不良が起きていると考えられます。そのため、炎症を抑える作用を持つGK2を投与すれば、TJの形成不良を抑制できるのではないかとの仮説を立てました。

もう一つは、皮膚を形成する成分の遺伝子の発現を促すことで知られる「異性化糖」という物質です。異性化糖によって皮膚を形成する成分が増えれば、皮膚の細胞が健常な状態に近くなり、それによってTJの形成が促進されると考えました。

こちらの試験も、TERによってTJの成熟度を評価しました。その結果、異性化糖を単独で使用した場合、ならびに、GK2と異性化糖を併用した場合で、TERが有意に上昇した(すなわち、TJの形成が促進された)ことを確認できました。このことから、ヒスタミンによるTJの形成不良が引き起こす敏感肌は、GK2と異性化糖によって軽減させることが期待できると判明しました。この結果を、敏感肌で悩む方々の解決につなげていけるよう今後も研究開発に取り組んでいきます。
TERのグラフ2 TERのグラフ2 左図:TJが未成熟な皮膚(敏感肌など)。TJが未成熟だと神経線維が角層付近まで伸びており、感覚刺激につながる可能性がある。 右図:TJが成熟した皮膚。TJが成熟していると、余分な神経線維は剪定される。 左図:TJが未成熟な皮膚(敏感肌など)。TJが未成熟だと神経線維が角層付近まで伸びており、感覚刺激につながる可能性がある。 右図:TJが成熟した皮膚。TJが成熟していると、余分な神経線維は剪定される。

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